機能訓練としての食事

人の筋肉や各種器官は、使用されないことで徐々に衰えていきます。 摂食嚥下口腔衛生委員会 で扱っている「食べる」行為も例外ではなく、 食べる行為を十分に行えない期間が続くと、食べるための筋肉や各種器官が衰えはじめ、やがて障害が生じてしまう場合もあります。

今回は、そのような「衰え」を防ぐ工夫をご紹介します。

ある利用者様には、嚥下機能の低下に対応してゲル化した均質な物性のお粥をご提供しました。 しかし、以前より歯槽堤がなく義歯の固定や閉口が難しい状態であったこともあり、 食塊形成と送り込みがうまくいかず、一部しか嚥下できずに吐き出してしまわれます。 食事動作の機能は自立されていましたが、うまく食べられないことで意欲の低下・体重の減少も見られました (捕食と一部を吐き出す、のを繰り返すことでの疲労も一因と考えられます)。

食べるための筋肉や各種器官の衰えから一般的に起こり得る障害としては、具体的に次のような状態が挙げられます。

  • 唾液分泌量が減り、口腔内が乾燥しやすくなる
  • 口を閉じる力が衰え、食べこぼしが多くなる
  • 咀嚼力が衰え、硬いものが食べられなくなる
  • 舌の動きが悪くなり、送り込めなくなる
  • 咽頭収縮力が落ち、残留が多くなる
  • 舌骨と喉頭の挙上が不十分になり、誤嚥しやすくなる
  • 上部食道括約筋の働きが衰え、逆流しやすくなる
など...
自力で食事を摂る

そこで、食事の物性の面から喫食率を上げる取り組みを開始しました。

流動速度の速い物性は むせやすいことから、嚥下反射遅延も疑われます。 そこで咀嚼を促す付着性の高いお粥を食べていただきましたが、 不均質で粒があると咀嚼ができず、むせが生じてしまいます。

これらの状況から、口腔内でまとまりやすく、付着性がある程度確保され、 できる限り均質な物性の食事が適していると考え、 現在ご提供しているお粥にゲル化剤を追加して撹拌することで、硬さ・付着性・凝集性を若干高めたお粥を試作しました。 口腔内保持と食塊形成・送り込みのしやすさ・嚥下のしやすさのバランスがとれたことで、かなり喫食率が上がり、 利用者様ご自身も、口腔内でのまとまりと送り込みやすさを感じられたようでした。

また、食事動作の面では、食事を口腔内の前部に運びがちであるのが原因で、 口腔内圧がかかると口からこぼれやすい事もわかりました。 そこで現在、舌中央近くに捕食しやすい食具による自力での食事についても評価しています。

 

介護の現場では、食事動作ができなくなると食事介助、喫食量が落ちると形態を落す、など、 利用者様の自立支援とは逆行する支援が、介助者視点で行われる状況を多々目にします。

しかし、その方の状態に応じた適切な物性の食事をご提供するという工夫をすることで、喫食量が増え、 一口食べる度に 「食物認知・捕食・咀嚼・送り込み・嚥下」といった「食べる」ための筋肉や各種器官が働くようになり、 衰えを防ぎ、回復へと進めることができます。 さらに、食具の工夫などにより出来る限り自力摂取できる環境を整えると、食事動作に関する機能も活発に働くことになります。

まさに、食べる行為そのものが機能を維持・向上するためのリハビリになると言えます。