2018年12月の記事

島津乃荘 栄養科 (栄養科のページタグ「栄養科」の記事)では、 口腔内残留がみられる方への主食として、粥ペーストという形態をご提供しています。

粥ペーストとは、お粥にゲル化剤を加えてミキサー状にしたものです。 通常のミキサー粥は付着性が強く飲み込みにくいのですが、 島津乃荘の粥ペーストは、容易に飲み込めて口腔や咽頭への残留を最小限に抑える物性に調整されています。

先日、介助スタッフから「混ぜご飯の際に粥ペーストがゆるい(水っぽい)場合がある(毎回ではない)」との声がありました。

口腔内保持力が弱いために早期に咽頭に流れてしまう方や、口唇閉鎖が十分ではないために食べこぼしてしまう方などに ゆるい状態の粥ペーストを食べていただくことは、「安全でストレスのない食事」を阻害する要因となってしまいます。

実際に食事介助の場面をラウンドしたところ、ワカメを含んだ混ぜご飯の粥ペーストのゲル化が、充分でない状態でした。

ゆるい粥ペーストの混ぜご飯

島津乃荘 で使用しているのは70℃以上に加熱した状態から温度が下がる際にゲル化していく仕様の製品ですが、 改めて製品の特長やゲル化の仕組みを調べてみると、塩分を含む場合は通常よりも高温に加熱するとよいことが判りました。 そこで、栄養科内で調理師と色々と試行してみることにしました。

加熱調理
しっかりとゲル化した粥ペースト

通常 島津乃荘 では80℃以上に加熱調理していますが、 それでもゆるい状態になる場合があったことから、更に温度を上げて90℃以上に加熱してみると、しっかりとゲル化することができました。 この粥ペーストであれば、咀嚼や送り込みの機能低下が原因で口腔内残留がみられる方へも「安全でストレスのない食事」をご提供できます。

このように、食事の調理だけでなく、利用者様や介助スタッフの声に耳を傾け、食事の改善・ご提供に今後も努めたいと思います。

今回は、食事中の咳き込みが強く、食事のたびに疲労される利用者様への対応を紹介します。

ご自身で食事をとられる利用者様のお一人が、食事中に大変な苦痛を伴う強い咳き込みを繰り返され、 食事のたびに疲労されていました。 食事の様子の観察と一口量や物性の異なる食事での評価を行った結果、 湿性嗄声(しっせいさせい:痰が絡んだようなかすれ声)も確認され、「咽頭残留」 が疑われました。

咽頭残留とは

嚥下圧が不十分な方や付着性の高い物性の食物の嚥下では、1回の嚥下動作では咽頭内がクリアにならず、 食物残渣(しょくもつざんさ:食べ物の残りかす)が咽頭内に付着することがあります。この状態が 「咽頭残留」 です。

咽頭残留の状態は、咽頭全体に膜状に貼りついたり、喉頭蓋谷(こうとうがいこく)や梨状窩(りじょうか)に残ったりと条件によって様々ですが、 次の嚥下時に気道へ流入したり、咽頭に違和感が残ることで咳き込んだりといった問題に繋がります。 この咽頭残留への対応方法のひとつとして、今回は交互嚥下を提案しました。

交互嚥下とは

お茶ゼリー
[今回使用したお茶ゼリー]

異なる性状の食塊を交互に嚥下することで残留物を除去する「直接訓練」の一種で、 付着性の高い食物やパサつきの強い食物の後にゼリー等を嚥下することで、口腔や咽頭の残留物を一緒に嚥下します。

先の利用者様にお茶ゼリーによる交互嚥下を試していただくと、咳き込みはほとんど起こらなくなりました。

交互嚥下

数口に1回はお茶ゼリーを口にして残留物をクリアにしながら食事するようにお伝えしたところ、 利用者様ご自身が咳き込みによる食事のしづらさを認識されていたこともあり、 スムーズに交互嚥下を実行できるようになりました。 現在は、咽(む)せることなく、ご自身で食事をされています。

摂食嚥下勉強会 のブログ記事 「摂食嚥下障害の方にも食べやすいメニューを検証」で パン粥のご提供について検討した際の様子をご紹介しましたが、今回は 島津乃荘 でご提供している パンメニューについて紹介します。

舌でつぶせるパン

島津乃荘では、パンを好まれる利用者様へ毎週木曜日にご提供しています。 パンの味が好きで、とても楽しみにされている方もいらっしゃいます。

しかし、パンは口腔内の水分を吸収してベタつきやすく、十分な咀嚼・食塊形成・唾液混和・送り込み・適切な嚥下圧 など一連の動作がスムーズに行えないと安全に飲み込めません。 万が一口にたくさん溜め込んでしまうと大きな食塊となり、窒息に繋がる恐れもあります。

捕食時に適切な大きさに調整できない、口腔内に溜め込んでしまう、咀嚼力が低く食塊形成に難がある、 唾液分泌の不足で貼りつきやすい、舌の動きが悪く送り込みに難がある、といったような問題がある方へパンをご提供する場合、 様々な工夫が必要になってきます。

そこで、島津乃荘では「舌でつぶせるやわらかさ」(学会分類:嚥下調整食3程度)に物性調整されたパンを活用しています。

このパンは、耳の部分でもスプーンで容易にすくうことができるやわらかさになっており、 軽い咀嚼様運動があればパン自身に含まれる水分によって適度に溶けて飲み込みやすく、口腔内への残留がほとんどなくなります。 そのうえ普通食と同じようなパンの姿でご提供できるので、食事の楽しみをご提供するという観点からも大変有効です。

パンをスプーンですくう

普通食の方にご提供しているパンに比べると少しカロリーが不足してしまっていますが、 チョコレートソースやフルーツソースなどを添えることで、 味のバリエーションを増やしながらカロリーを補填するように工夫しています。

他にも、咀嚼力が弱くミキサー食でご提供させていただいている方にはパン粥をご提供し、 味や香りだけでもパンを感じていただこうと工夫しています(参考記事「摂食嚥下障害の方にも食べやすいメニューを検証」)。

特別養護老人ホームを含む高齢者入所施設における楽しみの調査によると、 食事は第一位という結果となっています。 今後も、食事を施設生活での楽しみにしていただけるよう努めていきたいと思います。